かなのにうらるのブログ

小説・・・のつもり

秘石の誘い 最終

昼休みになり、リョウは昼食を食べ終えると、シホを訪ねた。
「先生、少し良いですか?」
「ええ、何かしら。」
シホは職員室の中で、授業で使う資料の、整理をしていた。
その手を止めると、リョウを見ながら聞いた。
「昨日のジロー、いえ、ザグルスの事ですが、先生は何故、ザグルスをあの熊の縫いぐるみに閉じ込めたのですか?
先生の力だったら、ザグルスをやっつける事もできたと思うのですが。」
リョウがジッとシホを見ながら、聞いた。
「そうね。。。
あの時、ザグルスの心が一瞬見えたの。」
「心が?」
「ええ。
彼は口や態度は悪いけど、本当は魔界にある、ある国の王族よ。」
「えっ、ザグルスが?」
リョウが、とても驚いた顔で、シホに聞いた。
シホは、リョウを見ながら、黙って小さく頷いた。

シホとリョウは、職員室の隣にある面談室に入ると、話の続きをした。
「ザグルスは、その王位継承の争いに巻き込まれて、敵対する者たちに、封じ込められたの。」
シホが、面談室にあるテーブルに目を落として、言った。
「それを、サナとケイが、あの本を使って、封印を解いてしまったのですね。」
「ええ。」
「ザグルスって、封じ込められるばかりで、少し可哀そうですね。」
「まあ、そうね。」
そう言うと、シホはリョウを見ながらクスっと笑った。

「ヘッ、クション!」
サナとケイは、教室で机を向かい合わせて、昼食を食べていた。
その時、サナの机の横に引っ掛けている、鞄に繋がれた熊の縫いぐるみのジローが、大きなくしゃみをした。
「あら、風邪?」
サナが、体を少し横に傾け、鞄に繋いでいるジローを見ながら言った。
「ジロー大丈夫?」
ケイも覗き込むようにして、ジローを見ながら、少し心配そうに言った。
「ああ、大丈夫だ。
クソ、誰か悪い噂をしているな。」
ジローはそう言うと、鼻を鳴らした。

「なあ、サナ。
逃げないから、この鞄から外してくれないか。」
ジローが、サナを見ながら言った。
「今は駄目よ。
熊の縫いぐるみが、突然動き出したりしたら、みんな
『良い子人形の再来だ。』
とか言って、パニックになるわ。」
サナが少し笑いながら、ジローに言った。
「そうね、勝手に動く熊の縫いぐるみって、みんな怖がるわね。」
ケイも笑いながら、言った。
「ちぇっ。
シホがこんな所に閉じ込めるから、自由に動くこともできねぇ。」
ジローが不満そうに、言った。

「ケイさんが、古本屋で見つけたあの本は、トラップというか、希望や願いだったのね。」
シホが、リョウを見ながら言った。
「えっ、あの本が?」
「ええ。
ザグルスを慕い、彼の封印を解きたいと思った者が、その方法を本に記し、こちらの世界に転送したみたいなの。」
「でも、何故、こっちに本を転送したのでしょう?」
「それは、多分だけど、
魔界でザグルスの封印を解いても、それが、直ぐに敵対する者にバレてしまうわ。
でも人間界から封印を解けば、封印を解かれたザグルスを、人間界に逃がす事ができる。
そう考えたんだと思うわ。」
シホは慎重に考えながら、話しているようだった。
「なるほど。。。
でも、あの本は50年以上前の物だから、敵対する者も居なくなってるかもしれませんね。」
「うーん、どうかしら。
魔族の平均寿命は、200歳を超えるの。」
「えっ、そんなに長生きなんですか?」
「ええ。
だから、敵対する者が、ザグルスの封印が解かれている事を知ったら。。。」
「こちらに来るかもしれない・・・?」
「ええ。」

「ねぇ、ジロー。
今度、みんなと一緒に、遊びに行こうよ。
ジローは、こっちの世界で暮らすんでしょ。
だったら、人間の事を、もっと知っておいた方が良いと思うの。」
サナが、鞄に繋がれた、熊の縫いぐるみのジローを見ながら言った。
「あっ、良いね、それ。
リョウくんも誘って、みんなで遊びに行こうよ。」
ケイも、嬉しそうに、ジローを見ながら言った。
「ああ、それも良いな。
ただし、お手柔らかに、頼むぜ。」
サナとケイには、そう言ったジローの顔が、少し笑ったように見えた。