かなのにうらるのブログ

小説・・・のつもり

秘石の誘い 1

サナは、都内の高校に通う女子高生である。
今年、高校に入学し、同じクラスのケイと友達になった。
ケイは高校への入学を期に、サナの家の近くに、隣の県から引っ越して来た。
サナとケイは毎朝、通学で利用している電車の駅で待ち合わせをして、一緒に登校していた。

その日、いつも待ち合わせている場所に、ケイが現れなかった。
(あれ?
今日は休みかな?)
少し心配しながら、サナはいつもの電車に乗り、一人学校へと向かった。
教室に入ると、既にケイが来ていた。
ケイは、教室の自分の席に座り、ジッと前を向いていた。
「ケイ、おはよう。」
ケイの姿を見つけると、サナが、いつも通りの明るい声で言った。
しかし、ケイは返事をせず、前を向いたままだった。
「どうしたの?」
サナはそう言って、ケイの顔を覗き込んだ。
ケイは目を閉じ、まるで瞑想しているようだった。
「ケイ、大丈夫?」
そう言って、サナは軽く、ケイの肩を叩いた。
「あっ、サナ。
おはよう。」
サナに肩を叩かれ、ケイはようやく、サナに気付いたようだった。
ケイは目を開けると、いつもの笑顔で、サナに挨拶をした。

「何してるの?」
サナが聞いた。
「あっ、えっと、
わたしの霊力が、どんな物なのか試してたの。」
ケイが、少し恥ずかしそうに言った。
「霊力?」
「うん。
実は、この前、古本屋さんで、こんな本を見つけたんだ。」
ケイはそう言うと、カバンの中から一冊の本を取り出した。

その本にはカバーが無く、表紙のあちらこちらが、擦れて破れていた。
とても古いものらしく、汚れや落書きなどが多くあった。
サナは、その本を受け取ると、パラパラと捲ってみた。
中のページも、破れたり、落書きがされていたりしており、殆ど本としての価値は無いように思えた。
「とても古そうな本だね。」
サナは、本を少し読みながら言った。
「うん。
もう50年以上前の本で、価値が無いんだって。
それで、古本屋のおじさんが、
『気に入ったならあげるよ。』
って言ってくれて、それで貰ったんだ。」
ケイが、少し嬉しそうに言った。

「ふーん。
それで、この本に、霊力の試し方が載ってたんだ。」
サナが、本を返しながら言った。
「うん。
ここに書いてあるんだ。」
そう言うとケイは、本のあるページを広げた。
そのページは下の方が破り取られており、また落書きがたくさん書かれている為、書いてある文字が読み取れなかった。
しかしページの上の方には、ほとんど落書きが無く、書いてある文字をハッキリと読み取る事ができた。
それは数字が振られた行であり、何かの手順を示しているようだった。
「ほら、ここに、『霊力の試し方』って書いてあるでしょ。」
ケイはそう言って、手順の下に掛かれた落書きを指さした。
「そうだね。」
サナはそう言ったものの、少し不安な感じがした。

「サナもやってみる?」
「うん、面白そうだね。」
「じゃあ、ここに書いてある事を読むから、その通りにしてみて。」
ケイはそう言うと、本の内容を読みだした。

「それじゃ、行くよ。
まず、目を閉じて、今の天気と反対の天気を思い浮かべる。」
ケイが言った。
「今日は晴れだから雨の日を思い浮かべれば良いんだね。」
サナは目を閉じると、雨が降っている情景を思い浮かべた。
「うん。
それから、自分の家の玄関から、家の中に入る。」
「うん、入ったよ。」
「じゃあ、そのまま、自分の部屋へ行って。」
「うん、部屋に着いた。」
「机の上に箱が置いてある所を、思い浮かべる。」
「箱?
箱なら、どんな箱でも良いの?」
サナが聞いた。
「うん。
たぶん自然と箱が思い浮かぶと思うから、それで良いんじゃないかな。」
ケイが、サナを見ながら言った。
そう言われて、サナは不思議と自分の部屋の机の上に、白色で蓋に花柄が描かれた箱が、思い浮かんできた。
「うん、思い浮かべたよ。」
「じゃあ、最後。
箱の蓋を開ける。」
「うん、開けた。」
「中に石が入ってるけど、何色かな?」
ケイが、サナを見ながら聞いた。
「えっ、石?
石なんて入ってないよ。
というか、箱には何も入ってない。」
サナは、そう言うと目を開けた。